作曲家の加藤和彦さんが亡くなりました。自殺だそうです。
加藤さんは、北山修さん、はしだのりひこさんと共に、ザ・フォーク・クルセダーズを結成し、大ヒット曲「帰って来たよっぱらい」で一世を風靡しました。
小学4年生の時、テレビの歌謡番組でこの曲が流れ、なんて奇妙な歌だと思ったものです。もう一度聞きたくなって、母に「レコードがほしい。」と 言いました。夜の8時は過ぎていましたが、母は黙って連れて行ってくれました。盛り場にある、間口の狭いレコード屋です。若いお姉さんがやさしく微笑みな がら「どのレコードですか?」とたずねてきました。
私は、すっかりあがってしまって言葉が出なくなりました。曲の題名もどこかへふっとんでしまって、「ああどうしよう。」と思うだけでした。お姉さんが「歌の初めはどうですか?」と聞いてくれました。
私は、消え入るような小さな声で「おらはしんじまっただ。」と歌いました。お姉さんはそれを聞いてにっこり笑いながら、ジャケットを見せて袋に包んでくれました。
家に帰ってから、レコードを何度も何度も聴きました。楽しい愉快な歌でした。連れて行ってくれて、店でだまっている私を、だまって待っていてくれた母のやさしさ。小さい私に心をこめて接客してくれた、お姉さんのあたたかい心。いつまでも思い出させてくれる曲です。
加藤さんのご冥福を、心からお祈りします。