2011年11月18日金曜日

隆の里

11月7日、元横綱・隆の里(鳴戸親方)が亡くなりました。享年59歳でした。
 隆の里は筋骨隆々の力感あふれる相撲で、1983年名古屋場所から1984年初場所までの四場所のうち、三場所優勝しました。

 特に新横綱として迎えた83年秋場所では、横綱・千代の富士と14戦全勝同士で激突。千代の富士をつり出しに破って、新横綱で全勝優勝の快挙を成し遂げました。
 最盛期は誰もかなう力士がいませんでした。特に千代の富士は隆の里に歯が立たず、隆の里の独走かと思われました。

 私が大学の4年生のときに、内科学の特別講義がありました。東北大学の後藤教授の講演で、主題は「糖尿病」でした。実は、後藤先生は当時幕内力士だった隆の里の主治医でした。

 糖尿病の血糖コントロールのため隆の里を入院させたが、大男のためベッドをふたつ横に並べて、斜めに寝てもらったなど、興味深いエピソードを語っていただきました。

 当初は内服薬でコントロールしようとしたそうですが、うまくいかずに低血糖発作を起こしていたそうです。土俵上で立ち上がった途端、相手がぶつかる前から隆の里が崩れ落ちる場面をよく見ましたが、それは低血糖による失神発作なのでした。

 しかし、後藤先生の指導のもと、インスリン注射の治療に切り換え、徹底した食事コントロールをすると、血糖値が安定してきました。
 血液中の糖分はインスリンの働きで筋肉中に蓄えられ、あのポパイのような肉体が出来上がったのです。

 講義のころは、隆の里が三役から横綱をうかがう頃で、医学の力とは大したものだと感心しましたが、それ以上に隆の里本人の不撓不屈の精神があったと思います。

 隆の里の全盛期は、私が大学の5、6年の頃で、相撲をゆっくり見ることが出来た時期です。医師を目指して試験勉強に取り掛かっていた頃、糖尿病を克服した隆の里の土俵に大きな声援を送ったものです。

 個性的な力士が、またひとり去り、さびしさが残ります。