2012年11月5日月曜日

Japaneseは、日本か日本人か(上)

 平成24年8月15日、広島市議会事務局は1通の陳情書を受け取りました。陳情者は茨城県在住の男性です。陳情の要件は、「広島平和記念資料館の展示の誤りを訂正することについて」 ということでした。

 誤りとは次の2点の文書についてです。

1.1943年5月5日のアメリカ「軍事政策委員会政策会議」の議事録

2.1944年9月18日に行われた、アメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相がニューヨークのハイドパークで行った極秘会談の合意文書 「チューブ・アロイズ」 です。

 この二つの文書が、資料館にその和訳とともに展示されています。

 まず「軍事政策委員会政策会議」の議事録の一部とその和訳とを紹介します。

1.The point of use of the first bomb was discussed and the general
view appeared to be that its best point of use would be on a Japanese fleet
concentration in the Harbor of Trak.

 The Japanese were selected as they would not be so apt to secure knowledge from it
as would the Germans.

 訳(最初の爆弾の投下地点について議論され、トラック諸島の港に集結した日本艦隊が最も望ましいだろうという意見が大半を占めた。
 日本人が選ばれたのは、爆弾から知識を得る可能性が、ドイツ人と比べて少ないだろうと見られたためだ。)

 この「軍事政策委員会政策会議」の議事録について、平和記念資料館は次のような解説文を紹介しています。

「この委員会は、軍人と科学者で構成し、原爆製造計画全体を管理していました。ドイツが降伏する約2年前に、原爆の最初の投下目標に選ばれていたのは、ドイツではなく、日本でした。」

解説文の英訳です。(冒頭部分省略・・・・About two years before Germany surrendered, the committee selected not Germany but Japan for the first atomic bombing. )


 この1.以下の文章をお読みいただくと、「Japanese」が訳文では「日本人」なのに、解説文では「日本」になっていることがわかります。陳情者は、これを改ざんだと指摘しています。

次に2の米英首脳の合意文書を読んでみます。まず原文の抜粋です。

2.・・・when a "bomb" is finally available , it might perhaps, after mature consideration, be used
against the Japanese, ・・・・)

 訳(「爆弾」が最終的に使用可能になった時には、慎重な検討の末、ことによると、日本人に対して使用するかもしれない。)

 一方、平和記念資料館の解説文です。

「アメリカとイギリスの首脳は、原爆を日本に対して使用するかもしれないと合意しました。」

解説文の英訳です。(・・・・ the U.S. and British leaders agreed that the atomic bomb
might be used against Japan. )

 訳文の「日本人」が、「日本」に変わっています。

 陳情者は来館し、この改ざんについての説明と展示の変更を求めました。しかし館長、副館長、学芸員はこの要求を拒否したので、市議会への陳情となりました。

つづきます。